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英国学校給食と子どもの食生活に関するレポートⅥ


                     

2010年1月20日


                     

鈴木 美保子/(財)学校給食研究改善協会 元評議員


今回は、給食改革が開始されてからの英国における給食摂食率など、現状報告です。

1. スクールフード・スタンダードと給食摂食率の推移
 英国における給食改革は第3弾のレポート第4弾のレポートで紹介したとおり、スクールフード・スタンダード(※1参照)の策定により、開始された。小学校(5~11歳)では1年経過、中学校(12~16歳)では、2009年9月より実施されているが、2006年の改革以来、給食の質改善は徐々に進んでおり、また各学校・地方自治体も「健康にもよく、美味しい」給食の内容実現に取り組んできた。
 これをリード・サポートする形で設立されたスクールフードトラフト (以下SFT、※2参照)は、給食改革の本質は、吟味された内容の給食を食べるのか食べないのか、生徒がみずからの自由意志で給食を食べることを選択、そしてその人数を増やすことであった。そしてこの改革を実践するために、給食事業者のコスト負担軽減をはかり、摂食率を2008年までに4%、2009年までに10%上昇達成させるという数値目標を掲げてきたのであるが、過去4年間の給食摂食率年次推移表をみても、その成果は残念ながらまだあまり出ていない。

○改革開始前年度2005年~2009年までの給食摂食率推移

期 間 小学校(%) 中学校(%)
2005~2006年 42.3 42.7
2006~2007年 41.3 37.7
2007~2008年 43.8 35.5
2008~2009年 43.9 36.0
 
 上記推移表から摂食率は給食改革開始から小学校では、僅かながら上昇しているが、中学校については、改革前に比べ6.7%も低下という芳しくない結果となっている。

 ※1 スクールランチの栄養成分の基準を定めるほか、食材の向上、施設の充実、スタッフ教育を推進するなど、2006年~2009年までの4年間をかけて、徐々に学校給食の内容を改善していく新たな基準
 ※2 学校給食及び食教育改善を目的として2005年に設立された独立行政法人

2. なぜ給食摂食率は向上しないのか
 「『健康にもよく、美味しい』給食内容となったのに、なぜ摂食率は向上しないのか?」
 朝7時のNHKニュース英国版といえるBBCテレビ"Breakfast"で、キャスターがSFTの代表に厳しく質問していたが、給食を食べない子ども達の意見は以下のようなものであった。

 【給食を食べない子ども達へのインタビュー】
 近くのファーストフード店で、山盛りのポテトフライ(※3参照)にケチャップをたっぷりかけて頬張る中学校生達のコメント:
 『ヘルシーな食べ物ではないのはわかっているけど、美味しいし大好きなんだ!』
 『チップスは安いからいい』
 『学校の食堂は混んでいて、並んでいたら時間が無くなるから』
 また給食を食べているかどうかには触れずに、好きな食べ物を訊ねてみると、
 『ピッツア&チップス』がほとんどで、時々『バーガー&チップス』、
 1週間に食べるファーストフードの回数を訊くと、
 『2、3回かな・・・』と遠慮がちな女子や、元気に『毎日!』と答える男子もいる。

 子ども達に定着した揚げ物や肉加工品を減らし、甘いドリンクや菓子パンをなくし、代わりに、野菜がたっぷり添えられた魚のソテーに胚芽パン、牛乳といった内容の給食は、「ピッツァ&チップス」が大好きな子ども達にはなじまないのだ。
 イギリスではどこに行っても(高級フランス料理店でさえ)年齢を問わず、紳士淑女もチップスを食べている実態をみれば、子ども達がこうなるのは当然ともいえる。

 給食摂食率が向上しないことに対してSFTは、
 「目標数値は達成できなかったが、給食の内容は着実に改善され、児童生徒の健康によいメニューに変わりつつある。好ましくない内容の給食摂食率がたとえ100%達成されたとしても、バランスの取れた内容の給食を約40%の児童生徒が食べていることの方が、はるかに意味がある。SFTは、今後も引き続き当改革を推進していく。」
と発言している。

 ※3 英国名物"フィッシュ&チップス"のチップスこそ、このポテトフライであって、ある意味、古き昔から受け継がれてきた国民的食べ物ともいえる面は否定できない。

3. 摂食率向上に向けて
 先述のTV番組でもプライベートスクールの校長は、「子ども達の食の好みや習慣を変えるということは大変に時間がかかることだ。特に、年齢が高いほど、子ども自身の好みや食習慣が定着してくるので難しく、短期間では不可能」と、長期戦になるとの見方をしている。
 大好物ばかりで定着された子ども達の食習慣を改善させるのは容易ではない。
 そして、その間にも給食の内容はますます子ども達の嗜好からかけ離れたものになる筈で、これに歯止めをかけ、給食摂食率向上を実現するためには、「子ども達に望ましい食習慣を定着させるべく、行政も社会も一体となって、余程の覚悟と積極策をもって取り組まなければならない」といえる。



<<英国学校給食のレポート第6弾を読んで>>
 最近、日本の母親が子どもの好きなものしか食卓に並べないといったことをよく耳にしますが、栄養教諭・学校栄養職員が推進する「食育」は、学校で子ども達にしっかり「食」の大切さについて伝え、この子ども達が親を変えていくという意図が含まれています。
 このように、日本の学校給食制度は世界でも例をみない画期的な取組として、国際的にも高い評価を得ており、英国政府や関係者が子ども達の食生活の厳しい実態に苦悩している様子をみても、改めてわが国の学校給食制度のレベルの高さを実感するばかりです。
 これからも更にこの制度を充実し、機能させて、年々その成果が報告されている「食育」事業を、間違っても縮減・あるいは廃止して英国の轍を踏まないように、と願ってやみません。ひとたび、「食生活の崩壊」が起これば、そのダメージは計り知れず、元に戻すために気の遠くなるような経費と時間がかかるからです。